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水戸地方裁判所 昭和49年(ワ)272号 判決 1976年2月25日

原告

豆沢雅子

右訴訟代理人

木村市太郎

被告

豆沢時雄

右訴訟代理人

関谷信夫

外一名

主文

原告と被告との間で原告が別紙物件目録記載の宅地、建物につき二分の一の共有持分権を有することを確認する。

被告は原告に対し右宅地、建物につき二分の一の共有持分権の移転登記手続をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一ずつを原・被告の各負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告と被告との間で別紙物件目録記載の宅地建物が原告の所有であることを確認する。被告は原告に対し右宅地、建物につき所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、別紙物件目録記載の宅地、建物(以下本件宅地、建物という)は原告の所有である。

即ち、原・被告は昭和四二年一二月二六日結婚し昭和四三年一月二四日婚姻届を了したところ、原告は昭和四六年三月二四日茨城県住宅供給公社(以下住宅公社という)から本件宅地、建物を金二三八万円で買受ける契約をし、頭金一〇六万円を支払い、残金一三二万円については毎月一万円ずつ支払うことと定めたが、この月賦金についても原告が支払を続けて来た。しかるところ、原告は昭和四九年七月二七日に至り買受代金の残額一一六万八、九三八円全部を支払い、こゝに代金金額を完済した。

二、それ故、本件宅地、建物の所有名義については本来原告名義にすべきであつたが、登記簿上夫である被告の所有名義とした。

三  よつて、原告は被告に対し本件宅地、建物が原告の所有であることの確認を求めるとともに、真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記手続をなすことを求める。

と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め 答弁として、

一、請求原因一の事実中原・被告の結婚および婚姻届の日ならびに原告が昭和四九年七月二七日残金一一六万八 九三八円を支払つたことは認めるが、その余はすべて否認する。右支払は原告が被告に無断でなしたものである。

本件宅地、建物を住宅公社から買受けたのは被告であつて原告ではない。即ち、被告は昭和四三年六月住宅公社から本件宅地、建物をつぎの約定で買受ける契約をした。

1、譲渡価格 金二四〇万円程度(後に金二六八万五、二一一円と確定)

2、代金積立方法

昭和四三年一〇月三一日金四〇万円

昭和四四年四月三〇日 金三六万円

同 年一〇月三一日金三六万円

3、残金支払方法

昭和四六年五月以降毎月金一万円

4、建物引渡時期 昭和四五年五月

そして、被告は右売買契約に基づき、住宅公社に対し昭和四三年一〇月三一日金四〇万円、昭和四四年四月三〇日金三六万円、同年一〇月三一日金三六万円を支払い、さらに追加積立金として昭和四五年三月一九日金二〇万六千円を支払つた。この合計金一三二万六千円のうち金一〇六万円は原告の父からの借金であり、その余は被告の預金から出したのであるが、この借金については被告が原告の父に対し昭和四四年一二月三一日金二万円、昭和四五年八月一一日金二万円、昭和四六年一月一六日金六二万円をそれぞれ返済した。

さらに、被告は住宅公社に対し昭和四六年五月以降今日まで金三七万四二七六円を月賦で支払つている。

二、同二の事実中本件宅地、建物が登記簿上被告の所有名義となつていることは認めるが、その余は否認する。

三、同三の主張は争う。

と述べた。

<証拠略>

理由

<証拠>を総合すれば、原・被告は昭和四二年一二月二六日結婚し、昭和四三年一月二四日婚姻届を了し、水戸市千波町二〇三二番地の借家に居住して来たが被告の母きみも同居しており、昭和四三年一〇月五日長女寛子が出生してからは従来の借家では手狭となつたので、原告は毎月支払う借家料と住宅公社から分譲住宅を購入して支払う月賦金とが金額において殆んど大差がないことを知り、夫の被告と相談した結果右分譲住宅を購入することになり、早速購入申込をしたところ、好運にも当選したこと、当時被告は会社勤めをしており平均月収金五万円程度で他に資産もなかつたため、購入資金については原告がその父郡司信雄から贈与を受ける金員と被告が自己の貯金および給料ならびに身内からの借用金とで返済することとしたが、世帯主で収入のある被告の名義で住宅公社との間で分譲住宅の購入契約をなし、譲渡価格を金二四〇万円程度(後日金二六八万五、二一一円と確定された)とし、昭和四三年一〇月三一日より昭和四五年四月三〇日までの間に合計金一一二万円(第一回分昭和四三年一〇月三一日金四〇万円、第二回分昭和四四年四月三〇日および第三回分同年一〇月三一日それぞれ金三六万円ずつ)を積立て、残金については右積立金支払完了後被告が毎月金九、六六六円ずつを月賦弁済することとしたこと、ところで、前記第一回分積立金については原告がその父から金四〇万円の贈与を受けてこれを支払い、第二回分積立金については原告がその父から贈与を受けた金二六万円と被告自身の貯金一〇万円をもつて支払い、第三回分積立金については被告の母きみが出金した金一〇万円、被告自身の貯金六万円と原告がその父から贈与を受けた金二〇万円をもつて支払つたこと、また、その後追加分として積立てることになつた金二〇万六千円については被告自身が金六千円、原告がその父から贈与を受けた金二〇万円をもつて支払つたこと、また残金の月賦支払については被告がその給料から約定どおり履行して来たこと、原・被告は昭和四五年五月ごろ住宅公社から本件宅地、建物の引渡を受け爾来同所に被告の母きみ、長女寛子および長男弘章(昭和四五年一月二九日生)と同居し来たり、登記簿上被告名義で所有権取得登記を了したが原告の両親からの干渉が強くなつて来たため、原・被告間の夫婦仲は次第に悪化し、原告は昭和四六年ごろ前記二子を連れてその実家に帰つたこと、その後被告は転勤を命ぜられて肩書住居に転居しているが、原告との仲が破綻しているため同人との同棲をあきらめ、離婚手続未了ではあるが 他の女性と同棲していること、本件宅地・建物には被告の母きみのみが居住していること、以上の各事実が認められ <証拠判断略>(ただし、原・被告が昭和四二年一二月二六日結婚し、昭和四三年一月二四日婚姻届を了したこと、本件宅地・建物は登記簿上被告の所有名義となつていることは当事者間に争いがない)。

もつとも<証拠>によれば、被告は被告が本件宅地、建物を購入するにあたり原告の父信雄および原告から積立金中金一〇六万円を借用したとして、昭和四六年一月一六日右信雄に対し金六二万円の小切手を振出交付し(同人は同小切手金を一時的に保管していた)、さらに原告に対し昭和四八年一〇月一五日金四〇万円を送付したが送り返されたので、再び同月三一日金四〇万円を送金した(しかし、これも再び原告から送り返された)ことが認められるが、他方、被告の右送金はいずれも原・被告間の夫婦仲が悪化した後のことに属することも認められるのであるから、被告の右送金の事実をもつてたやすく前記認定を覆すことはできないし(なお被告本人尋問の結果中には被告は右郡司に対し借用した積立金の一部弁済として昭和四四年一二月に金二万円、昭和四五年八月に金二万円を返済した旨の供述部分が存するが、証人郡司信雄の証言と対比すればにわかに措信し難い)、また、<証拠>を総合すれば、前記郡司信雄はさきに被告から借用金返済のためとして送付されて来た前記小切手金六二万円は貸与の事実がないので受領すべき理由はないとして被告に対してこれを返還したが、受領を拒絶されたので、昭和五〇年八月一二日同金額を供託したこと、原告は同年九月一二日、原告が本件宅地、建物を買受けたのであるから、金九、六六六円の月賦代金の支払も原告がなすべきであるのに、被告が勝手に昭和四六年七月分から昭和四九年七月分までの月賦金合計金三五万七、六四二円を支払つたのは不当であるとして、同金額の受領を拒絶されたことを理由に被告に対し同金額を供託したことが認められ、また原告が昭和四九年七月二七日本件宅地、建物の残金金額一一六万八、九三八円を一時に支払つたことは当事者間に争いがないけれども(なお、右一時支払は原告が被告に無断でなしたことは弁論の全趣旨によつて認められる)、前記認定事実に徴すれば、右各供託および残金一時支払の事実もまた原・被告間の夫婦仲が悪化した後のことに属することは明らかであるから、かかる事実によつてはたやすく前記認定を覆すに足りない。

しかして、前記認定事実によれば、本件宅地、建物は原・被告が婚姻中に協力して取得したものであり、登記簿上の所有名義が被告であるとしても対内関係においては実質上その共有(持分二分の一)に属するものというべきである。もつとも、民法七六二条一項によれば、夫婦がその婚姻中自己の名で得た財産はその特有財産とするものとされているが 右特有財産とは名実ともに夫婦の一方の所有に属するものを意味するものというべく、たとい「婚姻中自己の名で得た」ものについても、単に名義が自己のものであるだけでなく それを得るための事情や対価などが自分のものであつて実質的にも自分のものであることを挙証しない限り特有財産とはならないものというべきであるところ、本件においては本件宅地、建物を得るための前記事情からして、またその対価などがすべて被告自身が支出したものでなくその一部を支出したものにすぎないことは前記のとおりであるから、本件宅地、建物をもつて被告の特有財産とすることはできない。また、本件宅地、建物が原・被告いずれの所有に属するか明らかでないものと設定すべきものとすれば、民法七六二条二項により、それは原・被告の共有に属するものと推定されることとなるが、対内関係においては、本件宅地、建物の取得の事情、対価などからして実質的にも原・被告の一方の所有であることが挙証されない限り、右推定を覆すことができないところ、前記認定事実によればいまだ原・被告双方につき右挙証が尽されたものということはできない。

以上の次第で、原告は本件宅地、建物につき全部的に所有権を有するものではなく、二分の一の共有持分権を有するものと認むべきであるから、原告の本訴請求は原・被告の間で原告が本件宅地、建物につき二分の一の共有分権を有することの確認を求め、かつ、被告が原告に対し本件宅地、建物につき真正な登記名義の回復を原因として右共有持分権の移転登記手続をなすことを求める限度で正当として認容すべきも、その余は失当として棄却を免れない。

よつて、民訴法八九条、九二条本文を適用し、主文のとおり判決する。

(太田昭雄)

(別紙)  物件目録

茨城県水戸市河和田町字新田前五六番一四〇

一、宅地 265.12平方メートル同所所在

家屋番号五六番一四〇

一、木造スレート葺平家建居宅一棟床面積52.99平方メートル

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